運送業(一般貨物自動車運送事業)の事業報告書には、決算書のほかに「一般貨物自動車運送事業損益明細表(第2号様式)」を添付します。これは、運送事業だけの収支を切り出して示す表です。決算書の数字をそのまま写せばよいわけではなく、どの科目に何を入れるか、そして兼業がある場合にどう按分するかにルールがあります。この記事では、その書き方を取扱要領にもとづいて整理します。
この記事の要点(先に結論)
- 損益明細表(第2号様式)は、事業報告書を構成する5つの書類のうちの1つで、運送事業だけの収支を切り出して示すものです。
- 事業報告書は毎事業年度の経過後100日以内に提出します。特定貨物自動車運送事業者は提出不要です。
- 営業費用は、直接現業部門の「運送費」(12科目)と、管理部門の「一般管理費」に分けて記載します。
- 兼業がある場合、共通する収益・費用は科目ごとに定められた配分基準で按分します(人件費は実働人日数、燃料費は走行キロなど)。
- 運送費の人件費は、運転者・修理工・運行管理者などの分を内数として括弧書きします。傭車費・下請費も同様です。
- 損益明細表・人件費明細表・事業概況報告書は数字がつながっているため、突き合わせて作成する必要があります。
- 中小企業者の特別償却額は、損益明細表の減価償却費には計上しません。
この記事の目次
損益明細表とは|事業報告書を構成する書類の1つ
事業報告書は、貨物自動車運送事業報告規則(以下「報告規則」)第2条にもとづき、毎事業年度の営業活動状況を報告するものです。1枚の書類ではなく、次の5点で構成されます。
| 書類 | 様式 | 内容 |
|---|---|---|
| 事業概況報告書 | 第1号様式 | 経営規模、株主、役員、経営している事業と売上構成比 など |
| 一般貨物自動車運送事業損益明細表 | 第2号様式 | 運送事業だけの営業収益・営業費用・営業外損益 |
| 一般貨物自動車運送事業人件費明細表 | 第3号様式 | 運転者・その他・一般管理費の別に人件費の内訳 |
| 貸借対照表 | ― | 様式・勘定科目の定めなし |
| 損益計算書 | ― | 様式・勘定科目の定めなし |
貸借対照表と損益計算書については様式や勘定科目の定めがなく、一般に公正妥当と認められる会計の原則に従う限り、事業者が任意に作成してよいとされています。一方で損益明細表と人件費明細表には決まった様式があり、記載の考え方も示されています。ここが手を止めやすいところです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 提出時期 | 毎事業年度の経過後100日以内 |
| 提出先 | 所轄地方運輸局長(実際の提出は、主たる事務所を管轄する運輸支局を経由できます) |
| 提出部数 | 1部(実務では2部提出し、1部に受領印をもらって控えとするのが一般的) |
| 対象 | 一般貨物自動車運送事業者。特定貨物自動車運送事業者は事業報告書の提出は不要 |
事業報告書の全体像や、もう一つの報告書である事業実績報告書(毎年7月10日まで)については、事業報告書とは?提出期限・様式・書き方の記事で解説しています。
根拠を見る(貨物自動車運送事業報告規則 第2条/抜粋)
第二条 貨物自動車運送事業者(貨物軽自動車運送事業者を除く。)は、次の表の第一欄に掲げる事業者の区分に応じ、(…)同表の第三欄に掲げる報告書を、同表の第四欄に掲げる時期に提出しなければならない。
2 前項の事業報告書は、事業概況報告書(第一号様式)並びに貸借対照表、損益計算書及び次に掲げる財務計算に関する明細表とする。
一 一般貨物自動車運送事業損益明細表(第二号様式)
二 一般貨物自動車運送事業人件費明細表(第三号様式)
3 第一項の事業実績報告書は、貨物自動車運送事業実績報告書(第四号様式)とする。
出典:貨物自動車運送事業報告規則 第2条(抜粋・表および第一欄~第四欄の内容は省略)
営業収益の部|何を「運送収入」に入れるか
営業収益は「運送収入」と「運送雑収」に分かれます。運賃だけでなく、運送に付随して受け取った実費や手数料も、それぞれ決められた欄に入れます。
| 区分 | 計上するもの |
|---|---|
| 運送収入 ①貨物運賃 | 貨物の運賃。品目割増、特大品割増、特殊車両割増、悪路割増、冬季割増、休日割増、深夜・早朝割増などを含む |
| 運送収入 ②その他 | 集配料、地区割増料、車両留置料、道路使用料その他の諸料金、荷役料など、運送に関して求められるサービスに対する実費 |
| 運送雑収 | 品代金取立料、貨物引換証発行料、着払い手数料などの諸手数料、事業用自動車を使って他人の広告を行った場合の広告料収入 など |
営業費用の部|「運送費」と「一般管理費」に分ける
営業費用は、直接現業部門にかかる「運送費」と、本社など管理部門にかかる「一般管理費」に分けます。運送費は12の科目に細分されており、ここが損益明細表でもっとも記入量の多い部分です。
| 科目 | 計上するもの |
|---|---|
| ①人件費 | 運送事業の現業部門に係る人件費(人件費明細表と整合させる) |
| ②燃料油脂費 | 事業用自動車、荷役機械等に係る燃料費・油脂費 |
| ③修繕費 | 事業用自動車、建物その他の事業用固定資産(現業部門に係るもの)の修繕費 |
| ④減価償却費 | 事業用固定資産に係る減価償却費。中小企業者の特別償却額はこの科目に計上しない(損益計算書上、特別損益として費用化するため) |
| ⑤保険料 | 自賠責保険料、対人・対物の任意保険、トラック共済掛金、現業部門の建物の火災保険、荷物保険、盗難保険 など |
| ⑥施設使用料 | 事業用施設・従業員社宅等の土地建物の賃借費用、荷役機械等の利用料(⑦を除く) |
| ⑦自動車リース料 | 事業用自動車に係るリース料 |
| ⑧施設賦課税 | 事業用の土地・建物・構築物・機械装置等に係る固定資産税、事業用自動車の自動車重量税・自動車税 など。不動産取得税・自動車取得税は取得価格に含める |
| ⑨事故賠償費 | 事故による見舞金品、慰謝料、弁償金 など |
| ⑩道路利用料 | 有料道路を利用する場合に支払う料金 |
| ⑪フェリーボート利用料 | フェリーボートを利用する場合に支払う料金 |
| ⑫その他 | 旅費、被服費、水道光熱費、備品消耗品費等のうち現業部門に係るもの、通信費、会議費、交際費 など |
| 科目 | 計上するもの |
|---|---|
| ①人件費 | 役員報酬、管理部門の従業員等の人件費 |
| ②その他 | 管理部門に係る減価償却費、保険料、施設使用料、施設賦課税、広告宣伝費 など |
このほか、営業活動以外から生じる経常的な収益・費用を「営業外収益」「営業外費用」として記載します。金融収益(受取利息・受取配当金など)、金融費用(支払利息・社債利息など)が中心です。
根拠を見る(第2号様式の取扱要領/抜粋)
各科目に計上されるべき収益、費用は次のとおりである。なお、一般貨物自動車運送事業とその他の事業とに関連する収益又は費用については、「貨物自動車運送事業に係る収益及び費用並びに固定資産の配分基準について」(平成2年11月29日貨経第44号、貨陸第133号)により算出した一般貨物自動車運送事業に係る収益又は費用を計上すること。
ア.運送収入…一般貨物自動車運送事業に係る運賃・料金及び利用料
イ.運送雑収…品代金取立料、貨物引換証発行料、着払い手数料等諸手数料(…)
ア.運送費…営業所の費用など直接現業部門に係る費用
イ.一般管理費…本社及び会社に準ずる管理部門に係る費用
(注1)運送費中の「人件費」には、運転者、修理工、運行管理者等の専ら事業用自動車の運行に従事する者の人件費を、内数として括弧書きで明記すること。
(注2)傭車費、下請費他の事業者に支払った費用を、内数として括弧書きで明記すること。
出典:「一般貨物自動車運送事業損益明細表(第2号様式)の取扱要領」(抜粋・各科目の細目は省略)
兼業がある場合の按分|配分基準にしたがう
運送事業のほかに倉庫業や貨物利用運送事業などを営んでいる場合、共通して発生する収益・費用は按分して、運送事業に係る分だけを計上します。この按分は感覚で行うものではなく、科目ごとに基準が定められています。
| 科目 | 配分の基準 |
|---|---|
| 人件費 | 従業員の実働人日数の比率(ただし技工の人件費は車両修繕費の比率) |
| 燃料油脂費 | 当該事業在籍車両の総走行キロの比率 |
| 修繕費 | 事業用自動車=総走行キロの比率/その他=期末有形固定資産額(車両・土地を除く)の比率 |
| 減価償却費 | 事業用自動車=当該事業在籍車両の総走行キロの比率/その他=期末有形固定資産額(車両・土地を除く)の比率 |
| 保険料 | 当該事業在籍車両の総走行キロの比率 |
| 施設使用料 | 実在延日車数の比率 |
| 自動車リース料 | 当該事業在籍車両の総走行キロの比率 |
| 施設賦課税 | 期末有形固定資産額(車両・土地を除く)の比率/事業用車両に係るものは総走行キロの比率 |
| 事故賠償費・道路使用料・フェリーボート利用料 | 当該事業に係る実額 |
| 運送費のその他 | 輸送トン数(作業トン数)の比率 |
| 一般管理費 | 運送費(または営業費から一般管理費を控除した額)から減価償却費を控除した金額の比率 |
| 営業外収益 | 営業収益の比率 |
按分が難しいときの取扱い配分基準には、金額が極めて少額である場合、または主たる事業に比べて兼業の割合が小さく配分基準の算定が困難である場合には、その金額を主たる事業に計上するという定めがあります。無理に細かく割らなくてよい場合がある、ということです。
根拠を見る(配分基準/抜粋)
一般貨物自動車運送事業及びその他の事業に関連する収益及び費用並びに固定資産(無形固定資産及び投資等を除く)は、その属する勘定科目ごとにそれぞれ次の基準によって各事業に配分するものとする。
なお、当該収益、費用及び固定資産が極めて少額である場合、又は主たる事業に比較して兼営する事業の割合が小さいため、配分基準の算定が困難である場合には、その金額を主たる事業に計上するものとする。
出典:「貨物自動車運送事業に係る収益及び費用並びに固定資産の配分基準について」(平成2年11月29日 貨経第44号、貨陸第133号)
つまずきやすい5つのポイント
1|人件費は「二段階」で振り分ける
人件費でつまずくのは、切り分けが二段階になっているためです。順に整理します。
第1段階:運送費か、一般管理費か(欄そのものが別)
まず、その人が現業部門(営業所など)に属するか、管理部門(本社など)に属するかで、記入する欄自体が分かれます。役員報酬や本社従業員の給与は一般管理費の欄に入り、運送費には入りません。
第2段階:運送費の人件費のなかで、内数を括弧書きする
そのうえで、運送費の人件費の枠内で、運転者・修理工・運行管理者など、専ら事業用自動車の運行に従事する者の分を、内数として括弧書きします。合計額だけ書いて終わりにしないよう注意してください。
| 職種 | 損益明細表(第2号様式) | 人件費明細表(第3号様式) |
|---|---|---|
| 運転者 | 運送費の人件費 (括弧の内数に含む) | 運送費の「運転者」欄 |
| 修理工 | 運送費の人件費 (括弧の内数に含む) | 運送費の「その他」欄 |
| 運行管理者 | 運送費の人件費 (括弧の内数に含む) | 運送費の「その他」欄 |
| 荷扱手・助手 | 運送費の人件費 (括弧の外) | 運送費の「その他」欄 |
| 事務員(営業所など現業部門) | 運送費の人件費 (括弧の外) | 運送費の「その他」欄 |
| 事務員(本社など管理部門) | 一般管理費の人件費 | 一般管理費の欄 |
| 役員 | 一般管理費の人件費(役員報酬) | 一般管理費の「役員報酬」 |
同じ「事務員」でも、営業所(現業部門)にいるか、本社(管理部門)にいるかで入る欄が変わります。肩書きではなく、どの部門に属して働いているかで判断します。
括弧の内数は、第3号様式の「運転者」欄とイコールではありませんここが最も間違えやすい点です。損益明細表の括弧の内数は運転者+修理工+運行管理者などを含むのに対し、人件費明細表(第3号様式)の「運転者」欄は運転者だけです(修理工・運行管理者は「その他」側に入ります)。第3号様式の運転者欄の数字を、そのまま損益明細表の括弧に転記すると合いません。
境界的な職種は運輸支局に確認を取扱要領の文言は「運転者、修理工、運行管理者等の専ら事業用自動車の運行に従事する者」となっており、上の表に挙げていない職種や、複数の業務を兼ねている方の扱いは、文言だけでは一義に決まりません。判断に迷う場合は、思い込みで処理せず管轄の運輸支局にご確認ください。
2|傭車費・下請費も「内数」を括弧書きする
他の事業者に支払った傭車費・下請費がある場合も、内数として括弧書きで示します。多重下請の是正が進むなかで、実運送体制の把握にもつながる項目です。
3|人件費明細表と一致させる
損益明細表の「運送費の人件費」は、人件費明細表(第3号様式)の運送人件費の合計と一致している必要があります。別々に作ると食い違いが起きやすいので、先に人件費明細表を作ってから損益明細表に転記するのが確実です。
4|事業概況報告書の従業員数とも連動する
事業概況報告書(第1号様式)に書く一般貨物自動車運送事業の平均従業員数は、人件費明細表の支払延人員(人月)の合計を12で割った数と等しくなるとされています。3つの様式は独立ではなく、数字がつながっています。
5|特別償却額を減価償却費に入れない
中小企業者の機械等の特別償却制度などを適用した場合、その特別償却額は損益計算書上は特別損益として費用化されるため、損益明細表の減価償却費には計上しません。決算書から機械的に転記すると誤りやすい箇所です。
提出しなかった場合
事業報告書・事業実績報告書の提出は法律上の義務です。報告をせず、または虚偽の報告をした場合、法第75条第12号により100万円以下の罰金の対象となり、法人にも罰金が科されます(両罰規定・法第80条)。
提出の積み重ねが今後の審査に影響する可能性があります2025年6月11日に公布された改正法(トラック新法)により、5年ごとの許可更新制が導入される予定です。施行は公布から3年以内(遅くとも2028年6月11日まで)とされていますが、具体的な施行日を定める政令は2026年7月時点で未公表で、更新審査で何をどこまで確認するかも公表されていません。ただ、報告義務を果たしてきたかどうかは日常の法令遵守の記録として残ります。毎年きちんと提出しておくことが、結果的に安心につながります。
出典・基準日:改正貨物自動車運送事業法(令和7年6月11日公布)/2026年7月時点
「兼業分の按分がわからない」「決算書のどの数字を持ってくればよいか迷う」といったご相談を承っています。作成から提出までの代行もお受けしています。事業報告書の作成・提出代行について詳しく見る/お問い合わせはこちら。許可後の手続き全般は運送業を営んでいる方向けのページもご覧ください。
なお、運送業の許可そのものの要件や流れについては、運送業許可とは?要件・流れ・費用の記事で解説しています。
