整備管理者がいない・辞めるとき|外部委託の可否と選任までの段取りを行政書士が解説

整備管理者が辞めることになった。後任にあてがない。このとき最初に考えるべきは、届出の期限ではありません。整備管理者が選任されていない状態そのものが、30日間の事業停止処分の対象だからです。しかも運送事業者は、整備管理者を外部に委託することが原則としてできません。この記事では、なぜ空白が生まれるのか、社内で誰を選任できるのか、時間がどれだけかかるのか、そして事前に何をしておけばよいのかを、条文と通達にもとづいて整理します。

この記事の要点

  • 整備管理者が全く不在の状態は、30日間の事業停止処分の対象です。
  • 運送事業者は、整備管理者を自企業外から選任することが原則としてできません。
  • 選任できるのは、整備士の資格を持つ人か、実務経験2年に選任前研修を修了した人です。
  • 選任前研修はいつでも受けられるわけではないため、後任探しには時間がかかります。
  • 整備管理者の補助者を平時から選任しておくことが、最も現実的な備えになります。
  • 選任後研修は、平成30年から受講の通知が来なくなりました。受け忘れは10日車です。
目次

整備管理者がいない状態は30日間の事業停止です

結論から書きます。整備管理者が全く不在、つまり誰も選任していない状態が確認されると、その営業所は30日間の事業停止処分を受けます。日車数を積み上げて自動車の使用を止める処分ではありません。営業所の事業そのものが止まります。

根拠は、貨物自動車運送事業者に対する行政処分等の基準についての通達5(1)④です。整備管理者が全く不在(選任なし)の場合に該当すると、該当する各号ごとに30日間の事業停止処分を行うものとする、と定められています。あわせて違反点数30点が付されます。

3年以内に繰り返すと許可の取消しです

この事業停止処分を受けた日から3年以内に、同一営業所で同じ違反をした場合は、原則として許可の取消処分を行うものとされています(通達6(1)④)。整備管理者の不在は、一度でも重く、二度目は事業の存続に関わります。

これは基準上の話にとどまりません。北海道運輸局が公表している令和7年6月25日の処分事例では、監査で判明した違反のうち「整備管理者を選任していなかったこと」に対して事業停止30日間が科されています。同じ事業者の他の違反は、車庫の位置と収容能力を無認可で変更していたことが10日車、休憩睡眠施設が警告、車両数の変更届出を怠っていたことが警告でした。

整備管理者をめぐる違反の重さ 整備管理者が全く不在 事業停止30日間 違反点数30点 解任命令に従わない 初違反 40日車 再違反 80日車 選任後研修を受けさせない 初違反 10日車 再違反 20日車 選任や変更の届出をしない 初違反 警告 再違反 10日車 不在だけが日車数の枠の外にある

届出を忘れた場合は警告です。研修を受けさせ忘れた場合は10日車です。ところが不在は事業停止。同じ「整備管理者に関する違反」でも、桁が違います。だからこそ、退職の申し出を受けた時点で動く必要があります。

なお、整備管理者を選任しなければならないのは、道路運送車両法第50条第1項により、一定の台数以上の自動車を使用する本拠ごとです。一般貨物自動車運送事業の事業用自動車であれば5両以上が基準になります。営業所ごとに1人置けば足り、運行管理者のように車両数に応じて人数が増える仕組みではありません。

外部に頼むことは原則できません

後任が社内に見つからないとき、多くの方が「外部の整備工場に頼めないか」と考えます。しかし、自動車運送事業者にはこれができません。

平成19年9月10日施行の改正により、自動車運送事業者が自企業外の整備管理者を選任することは原則として禁止されました。それ以前は外部委託が可能でしたが、事業者責任による整備管理を徹底するため、制度が変わっています。

運送事業者 自企業外の整備管理者を選任する できない 平成19年9月10日施行の改正により原則禁止 グループ企業 委託先がグループ企業のとき できる 規程類の要件、受託者の同意など条件がある 自家用車等 運送事業者ではない場合 できる 一定の要件を満たせば認められる

レンタカーの解説をそのまま読まないでください

インターネットで「整備管理者 外部委託」を調べると、委託できるという説明が数多く出てきます。その多くは自家用自動車やレンタカーについてのものです。運送事業者と自家用では扱いが正反対なので、そのまま当てはめると判断を誤ります。

例外となるのは、委託先がグループ企業である場合です。ここでいうグループ企業は登記簿や営業報告書等で確認されるもので、さらに次の条件をすべて満たす必要があります。

グループ企業内で委託する場合の条件

グループ企業が一体となって輸送の安全確保の体制を確保するため、安全管理規程および整備管理規程その他必要な規程類について一定の要件を満たしていること。外部委託することについて、受託者および受託者の雇用者または事業場責任者が同意し承認していること。整備管理者が他の業務または役職を兼ねている場合、その兼職内容および兼職にかかわる事業者間の距離が、整備管理者の業務を行うに支障とならないこと。

親会社や子会社を持たない事業者にとっては、事実上使えない例外です。後任は社内で用意するしかない、というのが出発点になります。

社内で選任できる人は2通り

整備管理者に選任できる人の要件は、道路運送車両法施行規則第31条の4に定められています。道は2つです。

表1 整備管理者に選任できる人
ルート要件準備にかかる時間
資格1級、2級または3級の自動車整備士技能検定に合格していることすでに合格していれば即日
実務経験整備の管理を行おうとする自動車と同種類の自動車の点検もしくは整備、または整備の管理に関して2年以上の実務経験があり、かつ地方運輸局長が行う選任前研修を修了していること研修の開催を待つ必要がある

3つ目として、これらと同等の技能として国土交通大臣が告示で定める基準以上の技能を有する者、という規定もあります。ただしこの基準を定めた告示を当事務所では確認できておらず、実務で使われている例も見当たりません。実際に選べる道は上の2つと考えてください。

資格で満たす 1級・2級・3級の 自動車整備士技能検定に 合格していること すぐに選任できる 実務経験で満たす 同種類の自動車の点検・ 整備・整備の管理を2年 かつ選任前研修の修了 研修の開催を待つ 共通して必要なこと 自企業内の者であること (過去に解任命令を受けたことがある場合は、 解任の日から2年を経過していること)

ここでいう「同種類の自動車」の区分は、二輪自動車と二輪自動車以外の2つです。トラックの整備管理者を選任するのであれば、二輪以外の自動車についての経験があればよいことになります。

実務経験には、整備工場や特定給油所等における整備要員として点検整備業務を行った経験のほか、整備管理者の補助者として車両管理業務を行った経験も含まれます。この点は第8章で詳しく扱います。

選任前研修という時間の壁

社内に整備士資格を持つ人がいなければ、実務経験のルートを取ることになります。そして、ここに時間の壁があります。選任前研修は、受けたいときに受けられるものではありません。

選任前研修は地方運輸局長が行うもので、運輸支局ごとに会場と日程を定めて実施されます。年度の上半期分と下半期分に分けて実施計画が公表され、そこに載っている日程の中から選んで申し込むという仕組みです。随時受け付けているものではありません。研修そのものは半日で、東京運輸支局では2時間30分、九州各県では2時間30分から3時間程度です。

表2 選任前研修の年間の開催回数(各運輸局・運輸支局の公表資料から集計)
運輸支局年間の開催定員
東京令和7年度は上半期に3回(5月・7月・9月)。令和8年度は上半期だけで6回に増え、4月から9月まで毎月1回。各回とも午前の部と午後の部記載なし
大阪令和6年度は下半期だけで12日程。10月から3月まで各月2日程記載なし
福岡年2回。7月と1月約500名
佐賀年2回。第1回が8月、第2回が翌年1月120名
長崎年4日程。長崎市で2回、佐世保市と五島市で各1回各約80名
熊本年2日程。7月と2月。各日程とも午前と午後の2部120名
大分年2回。8月と2月150名
宮崎年4回。第1回と第2回が7月、第3回が11月各50名
鹿児島年4日程。7月、10月に2日程、翌年2月回により30名から100名
和歌山年2回。6月と8月記載なし

数えるとはっきりします。東京や大阪のような大都市部の支局で月に1回から2回、九州各県や和歌山のような支局では年に2回から4回です。同じ「選任前研修」でも、住んでいる地域によって10倍近い差があります。

年2回の県では、逃すと次は半年先です

福岡・佐賀・大分・和歌山は年2回です。7月と1月、あるいは8月と2月といった間隔で、1回逃すと次の機会は約半年後になります。整備管理者の退職が9月に決まったとして、次が翌年1月なら、その間の空白をどう埋めるかという話になります。

定員も公表されています。福岡の約500名は例外的に多く、宮崎は各回50名、鹿児島は回によって30名から100名です。その県で1年間に整備管理者になれる人数が、実質的にここで決まっているということでもあります。

なお表の数値は、東京運輸支局が令和7年度と令和8年度に公表した実施要領、大阪運輸支局が令和6年度下半期に公表した日程、九州運輸局が令和8年度前期と令和7年度後期に公表した日程一覧、和歌山運輸支局が令和8年度に公表した開催案内から集計したものです。年度によって回数は変わります。現に東京運輸支局は、令和7年度の上半期3回から令和8年度の上半期6回へと倍に増やしています。実際の日程は管轄の運輸支局でご確認ください。

開催される月(年度は4月から3月) 東京運輸支局 令和8年度は上半期だけで6回 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 福岡運輸支局 7月と1月の年2回 同じ制度でも、管轄によって機会の数が違う 年2回の支局では、逃すと次は半年先になる

申込みはオンラインです

多くの運輸支局は、自動車整備関係研修の全国共通のオンライン予約システムを使っています。電話やファクス、メールでの申込みを受け付けていない支局がほとんどです。申込期間は支局によって異なり、東京運輸支局は各回ごとにおおむね1週間、大阪運輸支局は全日程の受付が年度当初にいっせいに始まる方式です。大阪は1つのアカウントで申し込めるチケットが1枚に限られているため、会社がまとめて複数名分を押さえることができません。候補者が複数いる場合は、それぞれのアカウントで申し込む必要があります。

締切まで席が残っているとは限りません

申込期間内であっても、席が残っているとは限りません。これは公表資料に書かれています。神奈川運輸支局の案内は、予約の申込は開催日ごとの申込期間中に先着順で行うものとしたうえで、定員に達している場合は期間中であっても申し込めないと明記しています。九州運輸局の日程一覧にも、各会場ごとに定員に達し次第受付を終了する場合があるため必ず期限内に申込手続きを行うように、という注意書きがあります。

年2回の支局では、そこで満席になると次の機会は半年先ではなく1年先になります。日程が公表されたらすぐ押さえてください。

逆算すると、退職の申し出は「間に合わない」ことがあります

整備管理者の退職が1か月後だとして、次の選任前研修が2か月後にしかなければ、その間の1か月は整備管理者が不在になります。この空白が事業停止の対象です。届出の期限が15日以内であることより、こちらのほうがはるかに重い問題になります。

だからこそ、後任の候補者には退職の話が出る前に研修を受けておいてもらうことが理想です。そして、これは制度上も可能です。

実務経験と研修に、順序はありません

大阪運輸支局は、受講日までに実務経験が必要かという問いに対して、整備管理者への選任時に選任前研修の修了と実務経験の条件を満たせばよく、順序は問われないと示しています。研修を修了したあとに実務経験を積んでも差し支えない、ということです。つまり、実務経験がまだ2年に達していない社員でも、先に研修を受けておくことができます。

後任の候補が決まっていなくても、若手のうちに受けておいてもらう。この一手だけで、退職の申し出を受けたときの選択肢がまったく変わります。

実務経験2年をどう証明するか

実務経験のルートで選任する場合、選任届に実務経験を証明する書面を添付します。事業者が証明する形になるため、社内で作成することになります。

証明する内容は、どの種類の自動車について、いつからいつまで、どのような業務に従事していたかです。点検または整備の経験、整備管理者の経験、整備管理の経験など、経験の区分を選んで記載する様式になっています。

2年に足りているかを先に確認してください

「長く勤めているから大丈夫だろう」と考えて研修に申し込んだあとで、実務経験の中身が足りないと分かることがあります。運転者としての経験は、点検または整備の経験そのものではありません。日常点検を実施していた期間をどう評価するかを含め、判断が難しい場合は選任届を提出する前に管轄の運輸支局へ相談されることをおすすめします。

選任届の様式と記入要領、添付書類の全体像については、運行管理者と整備管理者の選任届をまとめた記事で整理しています。この記事では、届出の前段階である「誰を選任できるか」に絞って扱います。

他の営業所の整備管理者に兼ねさせられるか

営業所が複数ある事業者では、他の営業所の整備管理者に兼ねさせることを考えます。これは同じ事業者の中での話なので、第2章で述べた自企業外からの選任の禁止には触れません。そして、これを明文で禁じた規定も見当たりません。ただし、実質的には難しいと考えてください。

理由は、整備管理者の業務の性質にあります。整備管理者は、日常点検の実施結果にもとづいてその日その車を出してよいかを決める立場です。これは毎日、しかも運行が始まる前に発生します。離れた営業所の車両について、この判断を実際に行えるかどうかが問われます。

トラック協会が公表している解説でも、他の営業所との兼職について法規上の規制はないとしたうえで、管理を適切に行うことができないようであれば使用の本拠ごとに選任しなければならない、という整理がされています。形式的に名前を置くことは、名義貸しに近づきます。

距離は制度の中でも判断基準になっています

グループ企業内で外部委託する場合の条件にも、兼職にかかわる事業者間の距離が業務を行うに支障とならないこと、という項目があります。距離が業務の適否を左右するという考え方は、制度の中に明示されています。

運行管理者や運転者が兼ねてよいか

同じ営業所の中で兼ねる場合はどうでしょうか。整備管理者が整備管理者以外の業務や役職を兼ねることを、制度では「兼職」と呼び、これは認められています。ただし条件があります。

表3 兼職が認められる条件
条件内容
内容の明確化と承認兼職する業務内容が整備管理規程等により明確であり、かつ兼職することについて雇用者または事業場責任者が承認していること
距離兼職にかかわる事業者間の距離が、それぞれの業務を行うに支障とならないこと

したがって、運行管理者が整備管理者を兼ねることは可能です。両方の要件をそれぞれ満たしている必要はありますが、制度として妨げられてはいません。小規模な営業所では、実際によく見られる形です。

運転者との兼務についても、禁じる規定は見当たりません。ただし整備管理者は、使用者に代わって点検整備を励行させる監督者であり、使用者に対して整備計画や車庫の改善計画を進言する第三者的な性格を持つ、と国土交通省の資料は述べています。自分が運転する車の運行可否を自分で決める形になると、この性格が働きにくくなります。兼務できることと、兼務が望ましいことは別だと考えてください。

整備管理者には権限を与えなければなりません

道路運送車両法施行規則第32条第1項により、使用者は整備管理者が業務を適確に遂行できる体制を整え、必要な権限を与えなければならないとされています。これは、利益を優先する判断に対して整備管理者が安全の観点から運行の可否を決められるようにするための規定です。権限付与義務違反には10日車という基準が定められています。名前だけ置いて実際には何も決められない状態は、この違反にあたり得ます。

補助者を先に置いておくのが最も確実な備えです

ここまで読まれて、退職が決まってから動いたのでは遅い、と感じられたと思います。そのとおりです。そして、平時にできる備えがあります。整備管理者の補助者を選任しておくことです。

整備管理者の補助者は、道路運送車両法施行規則第32条第2項にもとづく制度で、整備管理者が自ら業務を行うことができない場合に、あらかじめ定めた業務の執行にかかる基準にしたがって業務を執行させることができます。ただし範囲があり、運行可否の決定と、日常点検の実施の指導等、日常点検にかかる業務に限られます。定期点検の計画を立てたり車庫を管理したりする業務までは任せられません。

この制度が備えになる理由は2つあります。

理由1 補助者になるための研修は社内でできます

補助者に選任できるのは、整備管理者の資格要件を満たす者のほか、整備管理者が研修等を実施して十分な教育を行った者です。外部の講習を待つ必要がありません。整備管理者が在職しているうちに、社内で教育しておけます。

理由2 補助者の経験は実務経験2年に算入されます

補助者として車両管理業務を行った経験は、整備管理者の資格要件である「整備の管理に関する2年の実務経験」として扱われます。つまり補助者を2年務めた人は、選任前研修を修了すれば整備管理者になれます。後継者を育てる道筋がここにあります。

整備管理者が在職しているうちに社内で教育する 整備管理者の補助者に選任する(届出は不要) 日々の効果 休暇や一時的な不在でも 運行可否を決められる 2年後の効果 補助者の経験が実務経験 2年に算入される 選任前研修を修了すれば 後任の整備管理者になれる

補助者を選任するときは、業務の執行にかかる基準を定め、その条件を満たしていることを整備管理規程により担保する必要があります。補助者の氏名等と補助する業務の範囲を明確にすること、教育を行うこと、業務の執行に必要な情報をあらかじめ伝達しておくこと、業務の執行結果について報告を受け必要に応じて記録し保存することが求められます。

教育は選任するときだけでは足りません。整備管理者が選任後研修を受講したとき、整備管理規程を改正したとき、行政から情報提供を受けたときにも、その内容を補助者に伝える必要があります。

なお、整備管理者の補助者に選任届は要りません。ただし整備管理者の選任届を提出する際に、補助者を選任している場合はこれらの条件を満たしているかが確認されます。規程に書いていなければ、その場で指摘を受けます。整備管理規程の作り方は、運行管理規程と整備管理規程を扱った記事で整理しています。

もうひとつ付け加えると、点呼を担当する人を整備管理者の補助者にも選任しておくと、実務が回りやすくなります。点呼では日常点検の実施またはその確認を行いますが、その結果にもとづく運行可否の決定は整備管理者の業務だからです。運行管理の補助者と整備管理の補助者は別の制度ですが、同じ人が両方を兼ねることはできます。この関係は運行管理者の補助者について解説した記事で詳しく扱っています。

退職の申し出を受けてからの段取り

ここまでの内容を、時間の流れに沿って整理します。

退職の申し出を受ける 社内に資格保有者か補助者経験者がいるか いる 選任して15日以内に 届け出る いない 選任前研修の日程を すぐに確認する 実務経験2年を満たす 候補者を決めて申し込む 間に合わなければ相談を

「選任前研修の日程をすぐに確認する」というのは、日付を調べるだけの意味ではありません。その日程にまだ空きがあるかどうかまで確認してください。年度の後半に差しかかっているほど、残っている席は少なくなります。

最初にすべきは、後任候補の洗い出しです。整備士の資格を持っている人がいれば、その日から選任できます。補助者を置いていれば、その経験が実務経験に算入されます。どちらもいない場合に、はじめて時間との勝負になります。

退職日までに選任できない見込みが立った時点で、管轄の運輸支局に相談してください。退職日そのものを調整できるのであれば、それが最も確実です。空白を作ってしまってから相談するのと、作る前に相談するのとでは、まったく意味が違います。

選任後研修を受けさせ忘れていませんか

整備管理者が在職している事業者にも、見落としやすい義務があります。選任後研修です。

貨物自動車運送事業輸送安全規則第3条の5により、事業者は選任した整備管理者に、地方運輸局長が行う研修を受けさせなければなりません。対象になるのは、新たに選任した者と、最後に当該研修を受けた日の属する年度の翌年度の末日を経過した者です。暦の2年ではなく、年度で数えます。

研修を受けた その日が属する年度が起点になる 翌年度の末日まで 暦の2年ではなく年度で数える 経過すると受講対象 受けさせていなければ初違反10日車 起点は受講した日ではなく、その日が属する年度である

平成30年から、受講の通知が来なくなりました

かつては地方運輸局長から研修の通知がありましたが、平成30年6月27日の省令改正により、この通知はなくなりました。案内が届かないため、事業者が自分で受講時期を管理する必要があります。「整備管理者 選任後研修 忘れた」と検索される方が多いのは、この制度変更が背景にあると考えられます。

受けさせなかった場合、整備管理者の研修受講義務違反として初違反10日車、再違反20日車という基準が定められています。これは机上の話ではなく、各運輸局が公表している行政処分の事例に、実際の違反条項として並んでいます。

受講の管理は事業者の仕事です。整備管理者本人に任せきりにせず、年度末に受講状況を確認する習慣を作っておくのが確実です。研修手帳を本人任せにせず事業者が保管しておく、という運用を勧めているトラック協会もあります。巡回指導でも確認される項目で、巡回指導の項目については別の記事で整理しています。

解任命令を受けると2年間選任できません

整備管理者には、行政から解任を命じられる制度があります。道路運送車両法第53条にもとづくもので、国土交通省が令和5年10月に示した資料に、該当する場合が具体的に挙げられています。

表4 解任命令が行われる場合
番号内容
1整備不良が主な要因となる事故が発生し、調査の結果、その自動車について日常点検整備や定期点検整備等が適切に行われていなかったことが判明した場合
2同じく事故が発生し、整備管理者が日常点検の実施方法を定めていない、運行可否の決定をしていない等、整備管理規程にもとづく業務を適切に行っていなかったことが判明した場合
3大型車のホイールボルト折損等による車輪脱落事故が発生し、過去3年以内に同じ事故が発生していた場合
4整備管理者が自ら不正改造を行った場合、不正改造の実施を指示または容認した場合、不正改造車の使用を指示または容認した場合
5選任届の内容に虚偽があり実際には資格要件を満たしていなかった場合、または選任時は満たしていたがその後資格要件を満たさなくなった場合
6日常点検にもとづく運行の可否決定を全く行わない、複数の車両について1年以上定期点検を行わない、整備管理規程の内容が実際の業務に即していない等、業務の遂行状態が著しく不適切な場合

3番の車輪脱落事故については、令和5年10月1日以降に発生したものから適用されます。近年の車輪脱落事故の増加を受けて追加されたもので、行政処分の基準にも同じ趣旨の項目が設けられています。

解任された人は2年間選任できません

解任命令により解任された者は、解任の日から2年を経過しないと整備管理者に選任できません。バス等の一定の自動車について選任される整備管理者にあっては5年です。この点は選任届の様式にも確認欄が設けられており、届出の場で必ず問われます。

そして、解任命令に従わなかった場合は40日車、再違反で80日車という基準が定められています。命令を受けたのに解任しないという対応は成り立ちません。

6番に注目してください。事故が起きていなくても、運行可否の決定を全く行っていない、整備管理規程が実態に合っていないという状態は解任命令の対象になります。名前だけの整備管理者を置いている事業者にとって、これは現実的なリスクです。

届出そのものは15日以内です

最後に手続の話です。整備管理者を選任したとき、変更したとき、解任したときは、その日から15日以内に地方運輸局長へ届け出なければなりません。道路運送車両法第52条にもとづく届出です。

運行管理者の届出が「遅滞なく」とされているのに対し、整備管理者は日数が明示されています。届出を怠った場合は警告、再違反で10日車、虚偽の届出をした場合は40日車、再違反で80日車という基準です。

期限より、順序のほうが大事です

15日という期限は、選任した日から数えます。裏を返せば、選任できていなければ届出も始まりません。この記事で繰り返し述べてきたとおり、問題は書類ではなく人です。届出は最後の工程だと考えてください。

様式は第1号様式で、届出者の氏名や住所、事業の種類、整備管理者の氏名、使用の本拠の位置などを記載します。変更届の場合は変更事項を朱色で囲む、といった記入上のきまりもあります。詳しい記入要領と添付書類については、選任届の記事をご覧ください。

なお、貨物軽自動車運送事業、いわゆる黒ナンバーの場合は、整備管理者の選任が必要になる台数の基準が異なります。10両以上が基準です。黒ナンバーについてまとめた記事もあわせてご覧ください。

よくあるご質問

Q 整備管理者が退職しました。すぐに後任が見つかりません。どうなりますか。

A 整備管理者が全く不在の状態は、30日間の事業停止処分の対象です。届出の遅れよりはるかに重い扱いになります。後任の見込みが立たない時点で、管轄の運輸支局にご相談ください。

Q 整備管理者を外部の整備工場に委託できますか。

A 自動車運送事業者は、自企業外の整備管理者を選任することが原則としてできません。例外は委託先がグループ企業である場合に限られ、規程類の要件や受託者の同意など複数の条件を満たす必要があります。

Q レンタカーは外部委託できると書いてあるサイトを見ました。

A 自家用自動車やレンタカーについては、一定の要件を満たせば外部委託が認められています。運送事業者とは扱いが異なりますので、そのまま当てはめないようご注意ください。

Q 整備士の資格がなくても整備管理者になれますか。

A なれます。整備の管理を行おうとする自動車と同種類の自動車の点検もしくは整備、または整備の管理に関して2年以上の実務経験があり、地方運輸局長が行う選任前研修を修了していれば選任できます。

Q 選任前研修はいつでも受けられますか。

A 受けられません。運輸支局ごとに実施計画が公表され、その日程の中から選んで事前に申し込みます。公表資料を集計すると、東京や大阪のような大都市部の支局で月1回から2回、九州各県や和歌山のような支局では年2回から4回です。定員に達すると申込期間中でも受け付けてもらえません。年2回の支局で逃すと次は半年先になりますので、日程が公表されたら早めに押さえてください。

Q 実務経験が2年に達していない社員でも、先に選任前研修を受けられますか。

A 受けられます。大阪運輸支局は、整備管理者への選任時に選任前研修の修了と実務経験の条件を満たせばよく、順序は問われないと示しています。後任の候補として見込んでいる社員がいるなら、早めに受講しておくと選択肢が広がります。

Q 他の営業所の整備管理者に兼ねさせてもよいですか。

A これを明文で禁じた規定は見当たりません。ただし整備管理者は日常点検の結果にもとづいて毎日の運行可否を決める立場なので、離れた営業所を兼ねると業務を適切に行えないおそれがあります。使用の本拠ごとに選任することをおすすめします。

Q 運行管理者が整備管理者を兼ねてもよいですか。

A 兼ねられます。整備管理者が他の業務や役職を兼ねることは兼職として認められています。ただし兼職の内容が整備管理規程等により明確で、雇用者または事業場責任者が承認していることが必要です。

Q 整備管理者の補助者に届出は必要ですか。

A 必要ありません。ただし業務の執行にかかる基準を定め、その条件を満たしていることを整備管理規程により担保する必要があります。整備管理者の選任届を出す際に確認されます。

Q 補助者はどこまでの業務を行えますか。

A 運行可否の決定と、日常点検の実施の指導等、日常点検にかかる業務に限られます。定期点検の計画の策定や車庫の管理までは行えません。

Q 選任後研修を受けさせるのを忘れていました。

A 整備管理者の研修受講義務違反として、初違反10日車、再違反20日車という基準が定められています。平成30年から受講の通知が来なくなっているため、事業者側で受講時期を管理する必要があります。速やかに次回の研修を確認してください。

Q 選任後研修は2年に1回と考えてよいですか。

A 対象になるのは、最後に研修を受けた日の属する年度の翌年度の末日を経過した者です。暦の2年ではなく年度で数えますので、年度末を基準に確認してください。

Q 解任命令を受けた人を、また整備管理者に選任できますか。

A 解任の日から2年を経過していなければ選任できません。バス等の一定の自動車について選任される整備管理者にあっては5年です。

参照した根拠と出典を見る

道路運送車両法(昭和26年法律第185号)第50条、第52条、第53条。第50条は整備管理者の選任義務と業務、および使用者が権限を与えるべきことを、第52条は選任等の届出を、第53条は解任命令を定めています。

道路運送車両法施行規則(昭和26年運輸省令第74号)第31条の3、第31条の4、第32条。第31条の4が資格要件と解任命令による欠格期間を、第32条第1項が整備管理者に与える権限を、第32条第2項が補助者を定めています。

国土交通省物流・自動車局自動車整備課「自動車の整備管理について」(令和5年10月)。整備管理者の業務、整備管理規程、使用者の義務、整備管理者の地位、解任命令が行われる場合について記載されています。

道路運送車両法の一部を改正する法律等の施行に伴う整備管理者制度の運用について(平成15年3月18日付け国自整第216号)。外部委託の原則禁止とグループ企業内の例外、兼職の条件、補助者の選任要件と業務範囲、実務経験の取扱いについて定めています。内容は国土交通省関東運輸局が公表している整備管理者制度の資料によりました。

貨物自動車運送事業輸送安全規則(平成2年運輸省令第22号)第3条の5。整備管理者に選任後研修を受けさせる義務を定めています。受講の対象となる者と、通知が行われなくなった経緯は、国土交通省四国運輸局の公表資料によりました。

貨物自動車運送事業者に対する行政処分等の基準について(平成21年9月29日国自安第73号ほか、最終改正 令和7年2月28日、令和7年4月1日施行)。5(1)④が整備管理者が全く不在の場合の30日間の事業停止を、3(2)が違反点数30点を、6(1)④が3年以内の同一違反による許可の取消しを定めています。

貨物自動車運送事業者に対し行政処分等を行うべき違反行為及び日車数等について 別表(令和7年2月改正、令和7年4月施行)。整備管理者に対する権限付与義務違反、選任等の未届出と虚偽届出、解任命令違反、研修受講義務違反の基準日車を定めています。

国土交通省北海道運輸局が公表している令和7年6月25日付けの行政処分の事例。整備管理者を選任していなかったことに対して事業停止30日間が科されています。

整備管理者選任前研修の開催回数と定員は、次の公表資料を集計しました。関東運輸局東京運輸支局「令和7年度整備管理者選任前研修の実施について」および「令和8年度整備管理者選任前研修の実施について」、九州運輸局「令和8年度九州運輸局管内整備管理者選任前研修(前期)日程」および「令和7年度九州運輸局管内整備管理者選任前研修(後期)日程」、近畿運輸局和歌山運輸支局「令和8年度整備管理者選任前研修開催のお知らせ」。大阪運輸支局の開催日程は令和6年度下半期に公表されていたものによりました。

定員に達した場合の取扱いは、関東運輸局神奈川運輸支局「令和8年度整備管理者選任前研修の実施について」および九州運輸局の日程一覧の注意書きによりました。申込みの受付期間、1つのアカウントで申し込めるチケットの枚数、受講する支局の考え方、実務経験と研修の順序が問われないことは、大阪運輸支局が公表している整備管理者選任前研修のページによりました。

本記事は2026年8月時点の法令等にもとづいて整理しています。制度は改正されることがありますので、実際の手続の前には原典または管轄運輸支局でご確認ください。

整備管理者の交代についてご相談を承っています

後任を誰にするか、実務経験は足りるか、間に合わないときにどう動くか。そら行政書士事務所では、許可を取ったあとに出てくるこうした課題についてご相談をお受けしています。選任届や変更届の作成もお引き受けしています。

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この記事を書いた人

行政書士 田丸浩史(登録番号 26261852)/そら行政書士事務所

大阪府箕面市を拠点に、一般貨物自動車運送事業の許可申請と、変更届・認可申請・各種報告書といった許可後の手続、役員法令試験対策に取り組んでいます。事業報告書・事業実績報告書の作成と、役員法令試験対策は全国に対応しています。

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田丸 浩史のアバター 田丸 浩史 行政書士

大阪府箕面市を拠点とする行政書士。運送業を専門とし、新規許可から各種変更届出・法令試験対策まで大阪府全域に対応。

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